設計事務所のアタラシイカタチ

兵庫建築士事務所協会主催のシンポジウム「設計事務所のアタラシイカタチ2020」にお誘い頂き、COCCA Ninomiyaを運営している今津(MuFF)と北川(文化工学研究所)が参加しました。
後半のパネルディスカッションでは、87歳の建築家である根津耕一郎さん(「東の黒川紀章、西の根津耕一郎」と呼ばれていた著名な建築家)に幾つか刺激的な質問を受け、とてもエキサイティングな議論ができました。

話した内容を下記簡単にまとめています。
観覧に来て頂いていた建築家、高橋利郎さんのブログにも丁寧に感想を書いて頂いています。

前半:今津・北川発表

なぜ協働するのか

私たちはCOCCAというプラットフォームを使い協働で設計を行っています。COCCAの説明をする前に、我々が現在の協働方法に至るまでの考えをお話します。
私たちは、複数の異なった個性や視点、職種をもったクリエイターが対話しながら協働することによってできるボトムアップ型のプロジェクトの可能性を模索しています。
それは、一人のクリエイターの個性によってできるトップダウン型のプロジェクトとは違い、プロジェクト参加者の誰もがイメージしていなかったプロジェクトの種を対話の中で生み出し(仮説・偶発的生成・アブダクション)、それを参加者全員で検証し育てるというプロセスです。

 

COCCA -社会のカッコを開いてつなぐプラットフォーム-

COCCAは、組織名やグループ名のような“人間の集団”ではなく、Dropboxのようなプラットフォームとして考えています。固定的なメンバーがプロジェクトに関わっているのではなく、プロジェクト毎に違ったメンバーがCOCCAというプラットフォームに関わり、プロジェクトがドライブされています。言うなれば“Powered by COCCA”です。
COCCAの由来は人、時間、空間の境界を区切る括弧(かっこ)を開いて(※()→)()つなげるというコンセプトからきています。多世代や多分野の人々が有機的に混ざり合い、共有しあい、活かし合い、社会のカッコを開きつなげるプロジェクトをつくり続ける、そのような連鎖を次世代に継承します。
事例を3つ紹介させていただきます。

まず、われわれはCOCCA f(f=fermentation発酵、function関数のf)という討論会を月2回(若い世代の回、さほど若くない世代の回)行っています。そこではプロジェクト以前の個人の思考や問いの種をプレゼンテーター(問いのみでもOK)から聞き手に投げかけ、その種について皆で議論する世代や分野を超えた対話の場づくりを実験・実践しています。

次に、個人、法人、行政のカッコを開いてつなぐプロジェクトとして、FOOD HUNTER PARKを紹介します。この事業は、個人を含む大小様々な企業9社で構成された合同会社で設計、建設、施設運営に取り組んだ和歌山市の公共事業(DBO方式)です。このプロジェクトで我々はブランディング、設計、運営全てに携わり、プロポーザルから施設運営及び事業リスクを負うことまでをワンストップで実践しています。

3つ目は、教育機関、企業、個人のカッコを開いてつなぐプロジェクトとして、大和船舶土地と神戸芸術工科大学と我々で協働した幾つかの改修プロジェクトがあります。

その他、関西学院大学の教員や学生と行っている、テレワークx移住を推進するための体験プロジェクトTune It Yourself等があります。

 

協働プロセス

我々が協働でプロジェクトを進める上で大切にしていることとして、コンテクストをしっかりと共有し、アイディアや選択肢を評価するための基準をつくること、また、課題の設定と深堀りを軸にしたチーム内での対話に時間をかけるようにしています。
プロジェクト毎に方法は違いますが、私が関わっているプロジェクトではウィリアム・ペーニャのプロプレム・シーキングをカスタマイズして使い、課題を抽出したりもしています。
建築プロジェクトにおいては、複数の模型や図面、CG、環境工学シミュレーション等を行い、複数の視点からパラレルに検討しています。

 

これからの働き方

コロナ禍においてフィジカルな対話の場を設けることが難しくなっていますが、プロジェクト以前の種を見つける切っ掛けとして、COCCA fのようなフィジカルな場での偶発的なコミュニケーションが必要なのではないかと考えています。
クライアントからの依頼を待つだけでなく、自ら小さなプロジェクトの種を見つけて発芽させ、育てていくことにこれからの働き方の可能性があると考えています。

 

後半:パネルディスカッション

根津さん:あなた方はコラボレーションをして民主主義的に建築をやっているように見受けられますが、建築はどこまでいっても独断と偏見だと私は思いますが、そのあたりはどう考えていますか。

北川:民主主義的かは分かりませんが妥協をしてる認識はないです。10人のクリエイターが集まれば10人とも別々の独断と偏見を持っていますが、対話を重ねることで、その10人が対話前には持っていなかったモノへと昇華することを目指しています。そこで生まれるモノも仰るように、どこまでいっても独断と偏見であると思います。